横浜地方裁判所小田原支部 昭和40年(ワ)76号 判決 1966年4月26日
主文
被告は原告に対し金八二三万八、〇〇〇円及びこれに対する昭和三九年七月一五日から完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決は原告において金一五〇万円の担保を供するときは仮りに執行することができる。
事実
原告訴訟代理人は主文第一、二項と同旨の判決及び仮執行の宣言を求め、その請求の原因として次のとおり述べた。
「一、原告は被告振出に係る左記約束手形二通の所持人である。
(イ)金額 金四三九万八、〇〇〇円
満期 昭和三九年六月一三日
支払地振出地とも 神奈川県足柄下郡箱根町
支払場所 株式会社駿河銀行宮の下支店
振出日 昭和三九年五月一五日
振出人 被告
受取人兼第一裏書人 鈴木英夫
被裏書人 白地
(ロ)金額 金三八四万円
満期 昭和三九年七月一五日
支払地振出地とも 神奈川県足柄下郡箱根町
支払場所 株式会社駿河銀行宮の下支店
振出日 昭和三九年五月一五日
振出人 被告
受取人兼第一裏書人 鈴木英夫
被裏書人 白地
二、原告は右約束手形を満期に支払場所に呈示して支払を求めたが、これを拒絶された。
三、よつて原告は被告に対して右約束手形金計八二三万八、〇〇〇円及びこれに対する(イ)の約束手形の満期後であつて(ロ)の約束手形の満期である昭和三九年七月一五日から完済に至るまで手形法所定の年六分の割合による利息の支払を求める。」
被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として次のとおり述べた。
「一、請求原因一のうち、被告による(イ)の約束手形振出の事実を否認し、(ロ)の約束手形振出の事実は認める。(イ)の約束手形は訴外鈴木英夫が偽造したものである。
二、請求原因二の事実は認める。」
被告訴訟代理人は抗弁として次のとおり述べた。
「一、(ロ)の約束手形は、鈴木英夫が偽造した約束手形を書替えたもので、被告が右書替に応じたのは満期を延すことにより原告と鈴木英夫との間で右約束手形金を決済し、被告に迷惑を掛けない旨原告らが約したからである。
二、仮りに(イ)の約束手形と(ロ)の約束手形の書替前の約束手形とが鈴木英夫によつて偽造されたものでないとしても、右二通の約束手形は被告が鈴木英夫に詐取されたものである。鈴木英夫は被告会社の取締役であるが、自己の資金繰と称し、昭和三七年頃から度々、被告振出の金額一〇〇万円前後の手形を持参し、これを割引き、その満期の都度、自ら買戻しをしていた。ところが昭和三八年一〇月頃、鈴木英夫は神奈川県足柄下郡箱根町底倉二四七番地において、自己が経営する山梨醸造株式会社が破産状態にあり、買戻しの意思も能力もないのにこれある如く装い、従来通り一〇〇万円前後の金策に使いたいから、との理由で被告振出の手形の貸与を求め、その旨被告会社取締役鳥居宏を誤信せしめ被告振出の、金額・振出日・満期・受取人欄白地の未完成の手形二通を騙取したもので、原告鈴木英夫とは永年取引関係があり、右事実を承知の上で取得したものである。
三、仮りに前項主張が理由がないとしても、本件手形二通は未完成手形であり、その補充は被告の承諾を得た上、鈴木英夫がなす旨の約束であつたが、同人はその約に反し、勝手にそれぞれ金額・振出日・満期・受取人欄を記入したものである。したがつて鈴木英夫にはこれら二通の未完成手形の補充権はなかつたのであり、原告はこれを承知の上受領したのであるから、被告にその支払義務はない。
四、仮りに以上の主張が認められないとしても、次のような理由により被告には本件約束手形金の支払義務はない。すなわち、本件手形二通はいずれも、被告振出、被告会社取締役鈴木英夫受取人の手形である。したがつてこれら本件手形の授受は取締役会社間の取引であり、その間に手形を授受する何らの原因関係はなかつたもので、被告が本件手形債務を負担することは被告会社を害する行為であるから取締役会の承認を得なければならない。ところが、本件手形の取引に関し、何らその承認を得なかつたのであるから、その取引は無効であり、被告はその手形債務を負担するいわれはない。原告は鈴木英夫が被告会社の取締役であることは承知していた。」
原告訴訟代理人は、右抗弁に対して「抗弁事実は全部否認する。」と述べた。
立証(省略)